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2014年08月01日
暑気払いの空間
カテゴリ : [案内望遠鏡]
世阿弥の芸談を筆録した能の伝書に通称『申楽談儀』がある。
60歳から68歳頃までの世阿弥の芸談だ。
室町時代の成立になるその申楽談義に 能面の作家について記した個所がある。
『一、面の事。翁は日光打 弥勒打手なり。 此座の翁は弥勒打手なり。
伊賀小波多にて座を建て染められし時 伊賀にて尋ね出し奉し面なり。
近江には赤鶴、鬼の面の上手なり。 近頃越智打とて 座禅院の打 宇賀のものなり。
女の面上手なり。 云々… 』 とある。
江戸時代になると『面目利書』『仮面譜』などの面についての文献が出たようだが、
能面作家についての資料としては最も古いもののようだ。

ここに出てくる 日光(にっこう)だの、赤鶴(しゃくづる)だのの作品に この猛暑の中 
三井記念美術館で出会える。 心地よい空調加減は数百年の時をかき消して
吸い込まれるような場所を演出していた。暑気払いの空間である。
申楽談義の如く 日光の翁面、赤鶴の勇壮な大飛出などの面の展示がみられる。
平安初期の人と謂われ、日光菩薩などを手掛けた仏師とも思われる日光。
詳細は不明だが 『翁は日光打 弥勒打手なり』 とあるのは 翁が能でなく神事としての
存在であったなら仏師による翁面作成は当然だったと思うし、 
能が大成する以前の古い作家ということになる。
この人の作と伝えられる翁面は他流にも伝わっているが、金剛流宗家に伝わった
重要文化財の白式尉翁面と、 同じく重文の黒式尉三番桑叟面の展示がある。
今回の展示面はすべて金剛流宗家から三井家へ贈られた面の数々。

赤鶴あたりになると すこしは氏素性が判るようで、名を吉成、文永〜弘安ごろの人とか…
近江申楽の大夫だとも云われ、鬼畜の面などの強烈なものでは比類なき名人と云われている。 
今回、何面かお目にかかれた。

有名な面打ちはいろいろあるが、通称 龍右衛門 (たつえもん)という人がいる。
姓は石川名は重政。女面の元祖といわれる。
現存の作品は 女面の名称として小面、曲見(しゃくみ)、十寸髪(ますかみ)、泥眼(でいがん) 
などや、若くてきれいな男の面も残している。
中でも 小面は史上有名で、かの豊臣秀吉が龍右衛門打の小面三面を 雪・月・花と名づけて
愛蔵しており、金春岌連に雪、徳川家康に月、金剛宗家に花の小面を贈ったという話がある。
金剛宗家伝来 花の小面 拝見。
愛くるしさの中央にもったりとした鼻を配した 忘れ得ない面である。

数十点の展示面は当時の作家、使用する役者と舞台そして観る人々の共に絡み合う息吹と、
これまでの時が育ててきた力をみなぎらせている。 
                          拝見するのも覚悟が要る猛暑のひと時。



能面と能装束  三井記念美術館 









投稿日 2014年08月02日 17:32:57
最終更新日 2014年08月02日 17:33:00
修正