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2007年05月20日
頼政
               頼政
                           La plume d’oie ©鵞毛庵 2003 「頼政」 
                埋もれ木の 花咲くこともなかりしに 身のなる果は あはれなりけり 
                Sur le bois fossile, jamais la moindre fleur ne s’est épanouie
                Et mon ultime destin fut affligeant plus encore



  6月に三余堂がつとめるとのことで、能の花の第一シリーズより「頼政」です。頭文字の装飾技法にゴティックの草書体を自分流にアレンジした作品。
頭文字の「S」は意外だと思われる方も多いかと思いますが、日本の方のみならず、一般的なフランス人にも馴染みがあまりない字。西洋のアルファベットも昔のものとなると想像がつき難いものが結構あります。ゴティック体は主にゲルマンのドイツ語圏で発達した書体で、ドイツ語をちょっとでもかじった方にはお判りと思いますが、文頭だけでなく、文中でも名詞の最初は大文字で書きます。従って大文字の使用頻度が高く、それに伴い多くのバリエーションが存在します。


頼政 これはほんの一例ですが、どれも大文字の「S」です。
La plume d’oie ©鵞毛庵

  そしてもうひとつ、苦労しながらも楽しいのは頭文字の装飾。この作品では西洋の昔ながらの技法を取り入れて、柄は能の修羅扇を用いています。 

能の二番目ものといわれる修羅物で使用する扇が修羅扇。この修羅扇には旭日に老松の柄の勝修羅、立浪に入日の柄の負修羅の二種類があります。勝修羅扇を使用する能は「屋島」「田村」「箙」の三番のみで、平家ものやその他は負修羅扇ですので、「頼政」もそうなります。

                                    

              負修羅扇 ©三余堂撮影 頼政

  西洋の古文書ではこの作品のように装飾の頭文字自体に黒を用いることは稀なのですが、修羅扇の黒い骨は軍扇を表しているという説があるので、くっきりと黒の文字にして庵主としては力作のひとつだったのですが...これを見た父がバッサリ。

       こいつぁ日が沈んでないねェ、浪が少ねェや     

あはれにも庵主自身が沈んでゆきにけり...。
投稿日 2007年05月22日 3:25:39
最終更新日 2007年05月22日 3:25:39
修正