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2014年05月01日
匂蕃茉莉
カテゴリ : [案内望遠鏡]


 もう三十年近くになろうか、 新緑の下を歩くと必ずさわやかな芳香を感じる道があった。
風に乗ってくる香りは 春を知らせる沈丁花の香気とは異なり むっとするような湿り気を
含みはじめた空気に混じりながら 追いかけてきた。 なんだろうかと思いながらも花の
香りとも知らず行き過ぎる。
つっかけたサンダルを引きずりながら 照り返すアスファルトに影を見て 『さっきの香りだ!』
手にセブンスターと釣銭を握りしめて、辺りを見回した。 この時期 植栽、プランターから、
道端の小さな草に至るまで美しく新しい緑は どれも勢いに満ちた顔をしてこちらを見ていた。
が、これといって己が鼻に薫りを感ずるものもなく、握られた釣銭が汗で湿って 早く解放しろ
と叫んでいるようだった。
孟夏の心地よい風が、肩越しにすっうと抜けるのを 『こんな季節を楽しめよ』 と、腹の中で
小銭に云いながら玄関へ向かった。

 次の年、煙草屋への道にある家の庭先に白やら藤色やらといやに豪勢な感じで花が咲く。
よくよく見ると 一本の木に濃い紫から白まで、漏斗状の五枚の花弁をつけて花の間に 光沢の
ある葉が陽を受けて輝いてる。 顔を寄せて もっとよく見たいと思った。
覗き込んだ鼻には突き刺すように強い芳香がして、『あの 香りだ!』
香りの主は 匂蕃茉莉とや。 三余堂初めて見知る。
 



花は咲き始めが濃い紫で、次に薄い紫色、最後は白色になって、強い芳香を放つという
ニオイバンマツリであった。 匂蕃茉莉、は、ナス科の常緑樹で原産は南米とのことだが、
日本でも充分に越冬する。その後 三余堂にも小さな鉢植えが嫁入りしてきた。 当時の
園芸の流行りだったのだろうか。 結構大きくなるもので 初夏の爽やかさを玄関先に振り
まいていたが、いつの間にやら なくなっている。 







      五月の花 匂蕃茉莉
投稿日 2014年05月02日 13:30:12
最終更新日 2014年05月02日 13:30:28
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