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2006年12月20日
初心忘るべからず
   世阿弥のこの言葉を耳にしたことがある方は非常に多いと思う。世阿弥の言葉でこれほど人口に膾炙したものはない。だが、その本当の意味は殆ど誤解されて使われている。それは「初志貫徹」のような意味に解釈されているからである。世阿弥が言いたかったのは、「初心」とは「初めての経験」「未熟な演技」などを指すもので、「初志」を言っているのではない。世阿弥が言う「初心」とは恥ずべきものなのである。 

この言葉は「花鏡」の中の三か条の口伝で、
      
      是非初心忘るべからず
      時々の初心忘るべからず
      老後の初心忘るべからず

とある。
つまり、初心の頃の未熟な芸をこころして上達過程の判断材料にせよ、齢を重ねるごとに年相応の芸をひとつづつ忘れずに幅広い芸域を求めよ、老後に至っては老いるという至難を乗り越えてこれまでの経験を生かして芸力を極めよ、ということなのだ。

                        初心忘るべからず
              (c)La plume d'oie2005 鵞毛庵 「初心忘るべからず」 37cmx62cm 
                  BON OU MAUVAIS N'OUBLIEZ PAS VOS DEBUTS
                  N'OUBLIEZ PAS VOS DEBUTS DANS CHAQUE PERIODE
                  N'OUBLIEZ PAS VOS DEBUTS DANS LA VIEILLESSE

  
   
この作品の書体は二種類あるが、両方ともローマ時代の書体で、石などに刻まれていた御馴染みの大文字書体ローマン・キャピタルと違い、手書きのローマ草書体である。ポンペイの遺跡などにみられるもの。下地はローマン・キャピタルを柔かく崩したような行書風な形で、黒地に白抜きの書体は完璧な草書体で、綴りによって崩し方にも変化がさまざまで、書くのが楽しい。しかし難読。画像をそれぞれクリックして大きくしてご覧ください。

       初心忘るべからず         初心忘るべからず  

       ローマン・キャピタルの例 鵞毛庵撮影       (c)La plume d'oie2005 鵞毛庵  上記作品部分


  よくタレントやスポーツ選手などが「初心に返ってその気持ちを忘れずに、これからも一生懸命がんばりたいと思いマ〜ス」などと誇らしげに言っているのを耳にするたびに、おいおい、それは初心じゃなくて初志ですぜ、とつぶやく庵主である。
恥ずべきことを貫徹されては困りモノ。

さてはて、わたくし鵞毛庵自身は如何なりや...。 
 
  
投稿日 2006年12月20日 21:11:06
最終更新日 2006年12月20日 21:11:06
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