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2009年10月01日
時雨月の御案内を
カテゴリ : [案内望遠鏡]
あちらも百年、こちらも百年、「100年記念の年」になると 昨年末三余堂月次《百萬》で書いた。
お陰さまで 全国各地で九皐会百周年の記念会は、無事進行中である。 
むっ!もう一つ、百年があった。
今年三月には 早稲田大学の演劇博物館で 
「世阿弥発見100年―吉田東伍と能楽研究の歩み―」と題する企画展をやっていた。

一般に世阿弥の秘伝書といわれるものは、「道のため、家のため」の書であった。
別に数百年もの間、土に埋まっていた訳でなく、自然の惠を人の手が丹精した
和紙と墨の力は、過去何千年と生き抜いた証明がある。
原本がすっかり朽ち果てるとは思えない。
室町から江戸の間は、能役者や一部の権力者、観世家、徳川家康などの大名家に秘蔵され、
人の目に触れることはなかったし、その必要もなかった。
が、御維新後、世の事情で顔を出した写本があったのだ。 


明治41年に、『申楽談儀』 さるがくだんぎ を吉田東伍が翻刻・刊行し、その存在が初めて
広く知られることになった。
数百年間、伝説的であった世阿弥の姿を明らかにする大発見!
能の大成期について具体的に知ることができる貴重な『申楽談儀』は、世阿弥の芸談を子息の
元能が書き留めたものである。
どのような経緯か長い時を経て 実業家・安田善次郎の手元にあった伝書が、吉田東伍によって
翻刻・刊行され、一般の人の目に触れた。

数百年の間には勿論、それなりに、それなりの人が必要として、写本、写本、写本を繰り返す。。                     
               なんたって 秘伝書。秘されれば 見なくちゃ、みなくっちゃっ!
スキャナー、コピーがあるわけでなし。
当然 加筆も、誤筆も、悪筆で訳の判らないものも出てこよう。
               僕、ここだけでいいから、そっちは君写せば! ぅっわぁ〜 いいのぉ。でも、メンド!!
                     やっとの思いで 写本したら お茶をこぼして駄目にィってなことも … あるかもしれない!



吉田東伍の業績は 『申楽談儀』の存在を広く伝えることには寄与したが、書写を重ねた本を
底本としているし、欠損は他の写本で補ったりして厳密さを欠いたらしい。
その上、安田の手元にあった伝書は大正十二年の関東大震災によってすべて焼失!
とはいえ、吉田東伍が「能楽創始の根本史料」と記した如く、刊行した『世阿弥十六部集』は、
能楽研究の第一級資料として高く評価され、研究者による研究を生んで現在にいたる。
戦後は、表章が携わった岩波文庫版『申楽談儀』、『世阿弥 禅竹』で、いろいろな写本を
参照して原文を復原する試みを行っているので 興味のある御仁は 図書館ででも…。 

書棚から引き出された『世阿弥 禅竹』時雨月の御案内を
時雨月の御案内をツンドクでも結構ケースに焼けがあるなぁ…


10月10日から東大の駒場博物館で特別展 
観世家のアーカイブ ―世阿弥直筆本と能楽テクストの世界―
と題した展示がある。
ここでも世阿弥と歴代の観世太夫に触れることができる。             
文中敬称略



投稿日 2009年10月01日 1:29:06
最終更新日 2009年10月01日 1:29:06
修正