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2013年04月12日
春霞 たなびきにけり
カテゴリ : [三余堂月次]
あまりの早い桜に追いつけ、おいつけと頑張った木々。
小さな芽吹きの若葉が レースのカーテンのごとく 朝日を覆う。
柔らかで壊れそうな生まれたての葉は 甘い新緑の香りも運んでくる。 
遠くから静かに風の音をも伝える。
冷たく澄んだ空が青く輝き、 
常緑の枝には濃き淡きと緑の色が重なり合って 艶やかな装いを呈する。
その陰で役目を終えて枯茶になった落ち葉の季節でもある。

霞か雲か、海の向こうから黄砂が、若葉寒の空から光を奪う。 まだまだそんな時もある。
“春霞 たなびきにけり久方の 月の桂の花やさく ”
と 能 “羽衣” の一節でもこの季節の様子を知る。
能の謡ばかりでなく、囃子も初心の稽古で必ずお世話になる 一節だ。
必死で師について口をパクパクさせたり、手を動かしたりでは
意味なんぞどころでなく、かすみもへったくれもないだろうが 春らしい詞章である。


三保の松原に住む漁師。松の枝に掛かった美しい衣を発見。 うちへ持って帰ろうっと!
そこへ天女が現れて、『その羽衣を返してぇ。それがないと、天に帰れないの。』 とくる。
『?見つけたの僕だしぃ、名前も付いてないしぃ〜 』 
『え゛っ〜 でもぉ〜  それがないとぉ…』 てな次第で、天女の舞を見せて貰えれば
返してもいいかなぁ… と。 取引成立。
そこで天女、有難しとばかりのお喜びダンスご披露。
月宮の様子はこんなところなの、とやら、春の三保の松原ってとっても素敵なんて、
褒めてみたりしながらの舞いとなる。
そうこうしているうちに 彼方
の富士山へ舞い上がった天女。
あぁ〜  いつのまにやら霞にまぎれて 消えていっちゃった…



世界中何処にもあるという、所謂 羽衣伝説をもとにした能である。作者は判らない。
漁師は羽衣を返したら、舞を舞わずに帰ってしまうだろうなぁ、と、なんとも懐疑的であった。
すかさず天女に 『いや疑いは人間にあり、天に偽りなきものを』 と、切り返えされる。
深く意味蓄えられた言葉であった。
邪念なく美しい天女の舞がその意味をことさら深める。

若葉寒の冷え乾いた 大気に改めて思う。
    『疑いは人にあり、天に偽りなきものを』 を… 


(c)La plume d'oie 鵞毛庵 2003 春霞 たなびきにけり
能「羽衣」より
天津風雲の通い路ふきとじよ乙女の姿しばしとどまりて


投稿日 2013年04月13日 2:03:15
最終更新日 2013年04月13日 2:03:51
修正