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2009年09月01日
カテゴリ : [案内望遠鏡]
文房四宝、 ぶんぼうしほう は、筆紙墨硯の四つをさす。書にとっては 大切なお道具。
骨董価値を持つ硯、墨などは美術品として 精巧な彫のもの等が博物館のケースに
鎮座ましましているのを観る。 その硯でその墨を磨ると どんなことになるのやらん… 


墨は、油煙や松煙などから取ったすすを膠で練り固めたもので、古代中国の甲骨文に
墨書の跡がある。
日本最古の墨書は、松阪市貝蔵遺跡で出土した土器にみられる。4世紀初頭という。
国内では奈良時代の後期、松の木片を燃焼させて煤を採取する 松煙墨が奈良県和束町で
作られたとされる。
油を燃した煤を膠で固めた 油煙墨の製造が始まったのは鎌倉時代である。
江戸時代は各地で製造されるようになったが、歴史と実績の奈良に職人が集まることとなり、
現在も奈良は墨の主要産地だ。墨製造見学が修学旅行のコースにも組まれている。

年月が経って乾燥した墨は、膠の分解が進むためにのびが良く、
                              墨色に立体感が出て、誠に宜しくなる!
ということだ…  なにが誠によろしいのやら 使えば 違いがわかる ということか。 古墨と呼ぶ。

墨の原料は煤で、基本的に色は黒。
しかし 黒とっても 青墨、紫墨、茶墨などと色味の違いはある。
松煙墨は松の燃焼温度にむらがあるために 重厚な黒味から青灰色まで墨色に幅ができるらしい。
油煙墨の油は菜種が最適とされる。繋ぎとなる膠は 動物性のもので、いわゆる、コラーゲン。
骨や皮から抽出、高級品は鹿である。この膠、年と共に成分が変質して弱くなる。
こうして 膠が枯れてくるのだ。
ものの本によれば 年月を経ると膠が枯れ、滲みも増し、墨色表現が広がる、と。 
枯れて、よくなる!!

お習字で丸をつけるのは朱墨。朱墨の原料は、鉱物として天然に採掘される辰砂だ。
朱の顔料や漢方薬の原料として珍重されていた。能の型を書き付ける時も この朱が入いる。

朱墨となじみの黒インク 手製インク


明治31年、田口精爾が開明墨汁として、発明した墨汁で会社を興した。
現在の開明株式会社の創始者である。くしくも 矢来能楽堂近隣 牛込区築土八幡であった。
墨汁は天然の煤ではなく工業的に作られたカーボンを使っているものがある。
このカーボンは、コピー機などで使われるトナーと似た成分の場合があるらしい。インクである。
中国で開発された固形墨も黒色インクの一種になる。
各地域の初期文明でも 植物の実や種、鉱物、イカなどの海洋生物から
様々な色のインクが作り出された。

先日 鵞毛庵が 手製のインクを届けてくれた。


つけペンで文字を書くことは 日常の生活に馴染まなくなった。勿論 インク壺も机上にはなくなった。
が、せっかくの届け物。 試しにと ペン先とペン軸を引き出しの奥から探しあてる。
紙の上を走るペン先から生み出される文字は のびが良く、色に立体感が出て、誠に宜し!


引出奥の墨、墨、と手製のインク 手製インク 

9月11・12日は 鵞毛庵が代々木でインクづくりの講習会を開く。詳細はこちら
投稿日 2009年09月01日 0:16:15
最終更新日 2009年09月01日 12:04:48
修正
2009年09月19日
ここ数日、能楽さんぽにアクセスできない状態で、皆さまには大変ご迷惑をおかけ致しました。申し訳ございません。

本日より、再開致しましたので、引き続きご愛読のほど、どうぞよろしくお願い致します。


            お詫び
          La plume d'oie(c) 鵞毛庵 2009   能「清経」
投稿日 2009年09月19日 9:36:48
最終更新日 2009年09月19日 9:36:48
修正
2009年09月20日
昨日小津和紙博物舗の文化教室でのカリグラフィーの一日講習の後、すぐ近所の三井記念美術館で「夢と追憶の江戸」 を見てきました。慶応義塾の高橋誠一郎浮世絵コレクションです。その多くが青や赤や黒がくっきりととても鮮明な色を保っています。

ちょうど先週末、中世ヨーロッパのレシピでゴールインクを作ろうというワークショップを開いた庵主ですが、その前の9月6日にテレビ番組
「ザ!鉄腕!DASH!」 で天然顔料の色を探すというのがテーマになっていました。昔の絵から赤、黄、青、緑、紫、白と黒の7色選んでその天然材料を見つけるというもの。そこで黒色は写楽の役者絵「市川蝦蔵」の髪の毛の「黒」。文献を紐解いたり専門家に聞いたりしてたどりついたのが「五倍子(ごばいし)」。おお、なんというタイミング!

いにしえの色  
三井記念美術館「夢と追憶の江戸」のパンフにある写楽の役者絵 まさにこの絵が[ザ!鉄腕!DASHI!」で黒と黄色、白の見本に選ばれていました。これが展示されるのはこの展覧会の後期


ゴールインクのゴールとは、英語で虫こぶのことを指し、ブナにできる没食子(もっしょくし)やヌルデにできる五倍子がそれにあたります。この虫こぶはタンニンを多く含み、それを抽出して、酸化鉄と合わせたものがインクになります。日本では古来から染料として五倍子を使っており、鉄漿(おはぐろ)の原料として知られています。ぬぬぬ?鉄漿とゴールインクは同じもの??そうなんです。染料以外に、没食子や五倍子は漢方薬としても使われていて、止血、止汗、下痢などに効能があるとか。(でもインクはくれぐれも飲まないように!)

ゴールインクの材料 硫酸第一鉄、粉砕された五倍子、丸いのは没食子いにしえの色

このインクは書き始めは薄めの色合いですが、時間が経つと鉄が空気に触れて酸化し徐々に濃くなっていきます。中近東あたりで発祥し、ヨーロッパには12世紀ごろ広まって、古文書の殆どがこのインクで書かれています。
本来は羽ペンで羊皮紙に書くところですが、19日付記事にも掲載した「清経」など普通の紙の作品にも庵主はこのインクを時々使用しています。


いにしえの色

La plume d’oie© 鵞毛庵 2007 能「葵上」部分

三井記念美術館の展示はなかなか見ごたえあり、いにしえの色をたっぷり満喫。

「土蜘蛛」、「安達原」など能の曲目を題材にした浮世絵もいくつかありましたが、題材として選ばれているだけで、どれもなぜかおどろおどろしいものばかり。「景清」も恐ろしい形相で...。
しかし、それはこれらの曲目や話が当時ポピュラーな題材だったということでしょうけれど。
投稿日 2009年09月20日 11:20:06
最終更新日 2009年09月22日 9:37:21
修正