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2007年09月27日
風姿花伝

                     秘すれば花   La fleur est matière à secret.


今回はハガキ大の作品より、同じテーマでそれぞれ違った技法の作品をご紹介します。画像をクリックして拡大してご覧ください。


              能の花 Vol.3 作品紹介 その8   
                       ハガキ大  ©La plume d’oie 鵞毛庵 2007                        

違う質感の組み合わせでのコントラスト。四角で囲まれた中はゴティック体を平筆で重ね書きし、その上に太いラインを乗せ、面相筆で自由書体を重ねました。


能の花 Vol.3 作品紹介 その8     
ハガキ大  ©La plume d’oie 鵞毛庵 2007  

こちらの書体はローマ時代の草書体からアレンジ。草書体といっても、ローマンキャピタルと呼ばれる石に刻まれていた書体が手書きにやわらかく変化したもの。
ここでもマスキングゴムを使用して白抜きしたりBOUSTROPHEDONブストゥロフェドンに挑戦。
ブストゥロフェドン(舌をかまないように!)というのは、昔の畑仕事の牛車のわだちから由来していて、ギリシャ語のBOUSが牛、STREPHEINが回すという意味。一行目は普通に左から右に書いて、二行目は一行目の右端の直ぐ下から左右に反転した文字で左に向かって書き、その次の行も同様に文字を反転させて、つまり普通の文字になって続いてゆくというもの。真ん中の黄色い蚕豆状のぽわぁんと浮かんでいる部分と、左下の赤い部分がその技法です。右上の緑の部分はFLEUR を散らばせています。
 

                          能の花 Vol.3 作品紹介 その8  
                
                           ハガキ大 ©La plume d’oie 鵞毛庵 2007

三枚目の作品は、同じローマ時代の書体のアレンジですが、白抜きの部分は鏡文字になっています。

どれも同じ内容でさまざまな技法で書いてみるのが目的で、色合いやデザインなどは、やはり鵞毛庵の頭の中を抜け出して部屋に浮かんできたもの。そして金箔でボリュームも少し与えてみました。

シリーズでの展覧会の作品紹介は今回で一応終了ですが、全作品を掲載していないので、折に触れてまたご紹介したいと思います。お楽しみ!

                           
投稿日 2007年09月27日 22:59:01
最終更新日 2007年09月27日 22:59:01
修正
2007年09月24日
               能の花 Vol.3 作品紹介 その7

                  ©La plume d’oie 鵞毛庵 2007 作品サイズ 72x28cm

風姿花伝            人々心々(にんにんこころごころ)の花なり。
                  La fleur varie selon les hommes et leur tournure d’esprit.


この作品も、マスキングゴムを装飾や白抜きの文字に使用しています。
書体はメロヴィンガ朝(481~751年)の頃の書体で、一文字づつ一応決まった形はあるものの、ひとたび文章になると、どんどん繋がってくっついて文字が変化してしまうという厄介な書体です。しかし、それゆえに、解読は判じ物を読むようで面白く、書く際も、いかに崩して繋げて判りにくく書こうか?などと楽しさ満点。


能の花 Vol.3 作品紹介 その7 ©La plume d’oie 鵞毛庵 2007 部分

この装飾や色使いに何か意図があるのですか?というご質問がかなりありました。
書体を決めたものの、どうしようかなぁと悩んでいたら、部屋中にふわふわ見えてきたのを書き留めた、といったところでしょうか。鵞毛庵の頭の中はこんな具合なのです。


 ©La plume d’oie 鵞毛庵 2007 部分 能の花 Vol.3 作品紹介 その7

画像はクリックすると拡大されます。

投稿日 2007年09月25日 6:57:21
最終更新日 2007年09月25日 6:59:49
修正
2007年09月20日
これはどうやって書いているのですか?と、よくご質問を頂いたのが白抜きの字。
マスキングゴムとかドローウィングゴムという液状のゴムを使用して書いています。このゴムで字を書き、乾いた後に擦り取れば白く抜ける技法です。
マスキングゴムは字を書くだけでなく、装飾の枠取りにも使用されます。これはペルシャやインドの写本でも枠取りに使われている技法です。下記でご紹介する「頼政」の扇面や「善知鳥」の装飾部分などはこの技法で枠取りしています。


高砂

能の花 Vol.3 作品紹介 その6

28x39(c)La plume d’oie 鵞毛庵2007

        松も色そい春ものどかに
Des pins la couleur profonde et du printemps la sérénité


松の青々とした感じに合わせて色を選びました。白抜きの件で一番質問攻めにあった作品。書体は白抜きの部分も中央の細かい部分も既存の書体をアレンジしたもの。

頼政 

39x56 (c)La plume d’oie 鵞毛庵2007  能の花 Vol.3 作品紹介 その6



          埋もれ木の 花咲くこともなかりしに 身のなる果は あはれなりけり 
           Sur le bois fossile, jamais la moindre fleur ne s’est épanouie  
               Et mon ultime destin fut affligeant plus encore



5月に取り上げた頼政ですが、これは扇の芝に着想を得た作品。細い書体は面相筆を使用しての自由書体です。緑の部分は和紙のコラージュ(貼り付け)、二番目の扇面が白抜きの技法です。この部分の書体はゴティックのフラクトゥール体。下方の扇面の書体はゴティック書体からのアレンジでYORIMASAと書いてあるのですが、文武両方に長けていたという老武将をイメージして。画像をクリックして拡大してご覧ください。

善知鳥

                      能の花 Vol.3 作品紹介 その6

                        39x56  (c)La plume d’oie 鵞毛庵2007

                           往時渺茫としてすべて夢に似たり
           Des choses d’antan le reflet lointain n’a plus de consistance qu’un rêve


色合いは「善知鳥」で用いる装束や扇からイメージ。往時渺茫(おうじびょうぼう)Des choses d’antan le reflet lointain の書体はリュスティカという古くローマ時代のものをアレンジ。白抜きの部分は自由書体とアンティカとかユマニスティックと呼ばれる書体です。

投稿日 2007年09月22日 5:11:41
最終更新日 2007年09月22日 5:49:15
修正
2007年09月17日
今回は「杜若」の作品を3つご紹介いたします。

今までも必ず「杜若」をいくつか書いてきましたが、定番にしているのが


   「花前に蝶舞ふ」de fleur en fleur dansent les papillons

です。

能の花 Vol.3 作品紹介 その5  

28x39  (c)La plume d’oie 鵞毛庵2007

ゴティック書体をいろいろアレンジして重ね書きしています。色合いは装束より着想。

はがき大 (c)La plume d’oie 鵞毛庵2007
 能の花 Vol.3 作品紹介 その5

こちらは同じ内容でも、ローマ時代の古い書体をアレンジし、ちょっと雰囲気を変えてみました。

                能の花 Vol.3 作品紹介 その5

                        28x39  (c)La plume d’oie 鵞毛庵2007 

                    明るく東雲の浅紫の杜若の花の心開けて
               S’éclairent nuées à l’orient de pourpre pâle de l’iris.
                   La fleur à l’illumination ouvre son coeur.

これは違う詞章よりの作品。葦のカラム(ペン)を使ってKAKITSUBATAと配し、筆書きの自由書体をあしらいました。  画像では判りにくいですが、明るく東雲に光るのをイメージしてパール顔彩を使用しています。       
投稿日 2007年09月17日 17:30:19
最終更新日 2007年09月17日 17:30:33
修正
2007年09月13日
住吉詣

能の花 Vol.3 作品紹介 その4  28x39 ©La plume d’oie 鵞毛庵2007

身をづくし恋ふるしるしにここまでも めぐり逢ひける縁は深しな

A corps perdu je vous aime et le signe en est que céans
le destin qui ménagea cette rencontre est profound


能「住吉詣」は光源氏が住吉神社を詣でた際に明石の上と偶然再会し、恥らう明石の上に声をかけて歌を取り交わすのですが、想いは募りながらも心ならずも別れてゆく物語。源氏物語の筋立てとは少し違った展開になっています。身をづくし恋ふるさまの二人をイメージしての色合いで歌の上の句を表し、下の句は自由書体で。

浮舟

28x39 ©La plume d’oie 鵞毛庵2007   能の花 Vol.3 作品紹介 その4   


             たちばなの小島は色も変わらじを この浮舟ぞゆくえ知られね

           L’Ile aux orangers de couleur jamais peut-être ne changera certes
           mais la barque au gré des flots nul ne sait où s’en ira


能「浮舟」はかつて薫中将と匂宮の二人に愛され、物の怪に取り憑かれ悩んだ末に入水したと浮舟の霊が回向を求める物語。水面にはかない運命がたゆたう様子を表現。

玉鬘
               能の花 Vol.3 作品紹介 その4
                39x56  ©La plume d’oie 鵞毛庵2007

                              玉鬘 Parure précieuse

能「玉鬘」は初瀬に詣でる僧が夕顔の娘である玉葛の霊を弔っていると、恋に悩み乱れ髪を戴いた玉葛が現れ、やがて妄執を晴らして成仏する物語。その様子をゴティック書体をアレンジしてまとめた作品。
              


投稿日 2007年09月14日 18:35:17
最終更新日 2007年09月14日 18:35:17
修正
2007年09月10日
能「半蔀」は光源氏への想いを美しく描いた曲目ですが、「夕顔」は同じ題材でもちょっぴり悲しいストーリーです。 光源氏と夕顔が忍び逢ったという旧跡に現れた夕顔の霊が、その逢瀬の最中に物怪にとりつかれて死に至ったことを語り、昔を懐かしむ物語。

夕顔

                          能の花 Vol.3 作品紹介 その3
 
                        
                        56x78cm ©La plume d’oie 鵞毛庵 2007

                     山の端の心も知らで行く月はうはの空にて影や絶えなん
                            De la crête des monts  
                  ignorant le sentiment la lune qui va indifférente au ciel
                            va-t-elle disparaître?

テキストに使用したカロリンヌ体はカロリンガ王朝の頃の公式書体であり、8世紀ごろから4世紀以上にわたって長く愛用された書体です。
背景は同じテキストをそのカロリンヌ体で重ね書きしたものと、自由にアレンジした書体を重ね合わせてあります。画像をクリックして拡大してご覧ください。


能の花 Vol.3 作品紹介 その3    夕顔部分

                                                                                      夕顔             能の花 Vol.3 作品紹介 その3 
                     39x56cm ©La plume d’oie 鵞毛庵 2007

山の端出でし月影のほの見えそめし夕顔の
A la clarté de la lune qui a franchi les crêtes imprécise apparue la belle du soir

はかない花の夕顔と、夕顔自身の哀れな行く末をイメージした作品。ゴティック体のアレンジを夕顔に見立てた背景に筆書きの自由書体を重ねています。
投稿日 2007年09月11日 15:20:43
最終更新日 2007年09月11日 15:20:43
修正
2007年09月06日
能「半蔀(はじとみ)」は源氏物語の夕顔が題材になっており、昨年10月の三余堂月次や同じく昨年10月の鵞毛庵の記事でも取り上げています。

この夕顔は、やはり六条御息所にとりつかれて儚い最期を迎えます。
げに、おそろしや。 

半蔀  

                          能の花 Vol.3 作品紹介 その2

                          56x78cm (c)La plume d’oie 鵞毛庵2007

                寄りてこそそれかとも見めたそがれに ほのぼのみつる 花の夕顔
                     Si venez plus près pour sûr la reconaîterez
                     celle que dans l’ombre du soir entrevue
                        Fleur de la belle du soir


ゴティックの草書体をアレンジしたもので大部分を重ね書きして埋め、頭文字の装飾は能「半蔀」で使用される作り物から着想。光源氏への想いを美しく描いた曲目です。


半蔀 部分 (c)La plume d’oie 鵞毛庵2007  能の花 Vol.3 作品紹介 その2

半蔀 
能の花 Vol.3 作品紹介 その2  28x39cm (c)La plume d’oie 鵞毛庵2007

心あてにそれかとぞ見る白露の光添へたる夕顔の花
Elle vous intriguait parée de l’éclat de la blanche rosée cette fleur de la bele du soir


背景はゴティック体をアレンジしたものと和紙のコラージュ(貼り付け)で、蔀戸に絡んだ夕顔の奥にかすかに光の君が見えたような見えないような。

画像はそれぞれクリックして頂くと、大きくなります。 



投稿日 2007年09月07日 10:57:05
最終更新日 2007年09月07日 10:58:37
修正
2007年09月03日
8月26日の案内望遠鏡でお知らせしたように、毎月曜と木曜に少しづつ展示作品をご紹介いたします。

展覧会期間中、よく皆様から伺ったのは、「これは絵なのでしょうか??」

いえいえ、字です!
しかし、必ずしも解読できるように書いているわけではありません。色合いは能の装束やテキストの内容などから着想し、既存のオーソドックスな書体を自分流にアレンジしています。


葵上

能の花 Vol.3  作品紹介 その1   28x39cm  (c)La plume d’oie鵞毛庵2007
   
昨日の花は今日の夢と   Fleur hier songe aujourd’hui 


※各画像をクリックすると拡大されます。

生霊となって葵上にとりついてしまう六条御息所は源氏の君から受けた寵愛をなんとか取り戻そうと必死。昨日までの栄華に激しくしがみつくも、今でははかない夢物語というわけで、動きとともに強い描写をベースにsonge aujourd’hui 今日の夢 は細々と表現。 
7月20日の記事 の中でご紹介している「葵上」も同じ題材の作品です。

野宮                      
               能の花 Vol.3  作品紹介 その1
            

                       56x78cm (c)La plume d’oie鵞毛庵 2007

                    野の宮乃秋の千草の花車 我も昔に廻り来にけり 
                   Au temple de la Lande sur mon char fleuri
                   des mille herbes de l’automne 
                   Moi-même du temps jadis        
                   je suis venue me ressouvenir


能「野宮」は源氏物語の賢木を題材にしており、嵯峨野の野宮の旧跡で、旅僧が六条御息所の霊に出会うお話。そこで御息所は昔、葵上との車争いの際の屈辱や光源氏の寵愛を失った悲しみなどを語って嘆きます。
ゴティック書体のアレンジを重ね書きして全体に秋草のイメージで包み、中心のテキストはゴティック書体のうちの草書体を多少アレンジしたものです。頭文字の装飾にも秋草をあしらい、車争いの屈辱を忘れきれぬ思いながら、旧懐ということで多少は角がとれて柔らかくなった御息所の気持ちを表現。


野宮

38x56cm  (c)La plume d’oie鵞毛庵 2007    能の花 Vol.3  作品紹介 その1
                                             

         昔を偲ぶ花の袖    Souvenir du temps jadis de mes manches fleuries

こちらも野宮より。昔日の栄華への旧懐に、花の袖が優雅に舞っているだろうか。。。。
投稿日 2007年09月05日 8:23:40
最終更新日 2007年09月07日 10:59:49
修正
2007年09月01日
カテゴリ : [案内望遠鏡]
9月も衣替えになる。 夏は終了ということである。

この猛暑の夏休みに 今も学校は 読書感想文を宿題に出すのだろうか。
100選だの ナツイチだのと文庫を厳選して売り出す。

集英社文庫では 古典作品にふれてもらおうと、4作品を特別企画として
今までとは違った イメージの装丁に一新。
漱石のこころ、 武者小路の友情、 宮沢賢治 銀河鉄道の夜、 太宰の人間失格。
この 人間失格の装丁が 大変な人気なのである。
新装一カ月で 7万5千部売れたそうである。 
人気コミック デスノート の小畑健氏の手になる表紙????

話だけでは さっぱりわからんので 先ずはこの文庫を入手とばかりに …
立ち寄る書店は どこも売り切れであった。
太宰の人間失格は 新潮社文庫の100選が平積みになるばかり。
新潮社装丁室のデザインも充分 今風で洒落ている。
しかたがないので 集英社文庫ニュース なるチラシで 装丁を確認する。



集英社文庫・ナツイチ新たな装い 

文庫本でさえ 乱造気味の出版物は 印刷、製本など 多少チャチになった気がするが
表紙をみて ンーッ! と興味を惹かれるなら 作戦成功である。
小学館の日本古典全集のカバーにも 人気イラストレーターを起用しているとか。
イメージで 先ず読者を 取り込むということであろう。

書店に新装版が並ぶと 中身を暗記するほど知った者も 思わず見直す。
同じ本でも装いが変われば つい手に取って見るものだ。
もはや 漱石も武者小路も古典といわれる現在
いままで ご縁の遠かった御仁にも 縁ができる。
新装版は 作品の命を延ばす。



     PHP文庫 新たな装い         
昭和60年初版後 この数年絶版であった本は
平成18年 新装出版になった。古びることのない歴史の本である。


が それは本ばかりではない。
繰り返し、繰り返し 時をかけて練り上げていく物は 多かれ少なかれ 同じである。
新装、改装は 長い時間を生き抜くものの課題である。 能もその一つ。

観世九皐会のホームページも 改装なった。








観世九皐会






投稿日 2007年09月01日 11:38:14
最終更新日 2007年09月05日 0:22:09
修正