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2010年07月12日
葦・蘆・芦
カテゴリ : [三余堂月次]
チャイコフスキーのバレエ組曲 くるみ割り人形の中に
『葦笛(あしぶえ)の踊り(Danse des Mirlitons)』というのがある。
この葦笛の踊りは、フランスの踊り、女羊飼いの踊りとも呼ばれる。
葦は、温帯から熱帯にかけての湿地に分布する背の高いイネ科の多年草。
水辺に自生して、世界で最も分布の広い植物だそうだ。
「アシ」が「悪し」に通じるのを忌んで、「ヨシ」とも呼ばれ、漢字表記も「葦」「蘆」「芦」とある。

茎の中は竹のように空胴で、笛として加工するのに都合が良い。
西洋のパンフルートは、長さの異なる芦笛を並べたものである。
古代中国の楽器で、雅楽演奏で見ることができる、簫(しょう)も同じ系統だ。
又、雅楽器の篳篥(ひちりき)、西洋楽器のクラリネットやオーボエ、などに用いられるリードは
この葦の英語でReedを指している。
西洋ではフランスのヴァール地方で採れたリードが 上物とされているとか。
音の明瞭さ、音量の具合等を決めるリードの選定は演奏者の重要な仕事。

ラテン語でcanna、ギリシア語でkannaと云う葦は、南フランスに広く分布している。
南仏は葦が一面に生い茂る沼地が多く、Cannesと呼ばれる地名がつけられたというのだ。
中世から19世紀頭までは、農業や水産業を中心とする村落であったというCannes(カンヌ)は
現在、「カンヌ国際映画祭」で知られる南仏のリゾート地だ。

葦・蘆・芦

鵞毛庵愛用の南仏産の葦(正確にはcanne de Provence 暖竹)のペン 
このようなペンは古代ローマやペルシャなどで多く使われていた。


イネ科の草、芦。日本では稲刈りの後に、芦刈(あしかり)が行われ、各地の風物詩だったという。
軽くて丈夫な棒である茎は用途も広い。
夏にお世話になる葦簀(よしず)は 芦の茎で作ったすだれ。
屋根材としても茅葺民家の葺き替えに現在でも使われているという。
日本神話ではヒルコが葦舟で流される。
パリのギメ美術館所蔵に 鈴木春信が描いた鷺と葦があるが、
芦は 河川の下流域や干潟広大な茂み、芦原を作り、多くの水生動、植物のよりどころとなる。
ちなみに 日本の古名は豊葦原瑞穂の国という。


能には 世阿弥の改作とされる《蘆刈》という曲がある。
津の国難波の浦で芦を売る男と、離れ離れになった妻との再会を描く。
漁師達の網を引く様や 乙女達の花笠の舞などを真似て見せたりなど
難波の春の様子と芦売りの風情を添えている能で、この部分を笠の段と云っている。
浄瑠璃や地歌箏曲でも《能 蘆刈》の笠の段の部分をとりあげている。
最後に芦売りは 男舞と称する舞を颯爽と舞い、妻と共に都へ帰って行くという話だ。

今、芦笛も芦売りも、夏の設えとしての葦簀さえも、東京はとんとご縁が遠い。
が、三余堂 昨日の九皐会では《能 蘆刈》の地頭を勤めた。
投稿日 2010年07月12日 0:25:30
最終更新日 2010年07月12日 0:25:30
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